四、着眼

1.座っている時の着眼
(イ)
座っている時の目付は、通常前方目の高さであるが、 居合道においてはその特性に鑑み、目の高さ前方を直 視しているとしても、一箇所を注視する如くして遠山 を望むような心持、即ち、八方に意を注いだような眼 付であることが望ましいのである。
(ロ)
また、座居の体勢であっても、業前に移る時の、即 ち相手を見定める時の着眼は、三米及至五米程前方を 注視することが至当である。



2.動作中の着眼
業前の動作中は、仮想の相手の変化につれて着眼する。 例えば、横一文字の抜付では、相手を正視したままであ り、斬り下ろす場合は、正視より斃れる相手の体につれ て、下方に目付が変わるのである。また、斃れた相手に 対する着眼は、相手を見越した前方数米(三・四米)の 場所に、附近をも留意して着眼するものである。



3.近接して斃れた相手に対する着眼
例えば、立膝の部の業前で相手を右横方向に引き倒し、 斬撃するような場合の着眼については、二様の考えがあ るようである。
(A)
斬り下ろしは胴の真中であるが、眼付は少し右方の 相手の眼乃至は相手の額・肩辺りにすべきであるとす る者。(森 繁樹先生)
(B)
主として相手の胴中に斬り下ろす故、胴の真中辺り に目付して斬り下ろすものがあるが、私はこの点次の ように考える。前記(A)の場合は、相手がたおれても尚 反撃の可能性を察知でき、又は予期する場合の斬撃時 の目付であり、後者はたおれた相手が、最早抵抗もな し得ない程の傷手を受けているような場合の斬撃の目 付である。前記(A)のように、抵抗の可能性が認められ る場合には、相手の頭部・肩・腕辺りにまで着眼する ことは当然のように考えられる。



4.動作中はみだりに瞬きをしないこと
この目付は、体勢と共に威圧の重要な要素であり、相 手に対する動作の最前線でもあり、この目付によっても 威圧の効果を十分に発揮することが大切である。